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宇都宮地方裁判所 昭和33年(行)4号 判決

原告 鈴木松吉

被告 壬生町議会

主文

被告壬生町議会が、昭和三三年一二月四日訴外奈良部峯吉、中村勝輝、琴寄理一および大栗丹波を壬生町選挙管理委員に選挙したことが無効であることを確認する。

本訴につきその余の部分を却下する。

訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

第一請求の趣旨

主文第一項同旨および原告が壬生町選挙管理委員の地位にあることを確認する。訴訟費用は、被告の負担とする。

との判決を求める。

第二請求の原因

(一)  原告、訴外国生重雄、横山玄正および賀長清一の四人は、壬生町選挙管理委員会であり、原告は、右選挙管理委員会委員長である。

(二)  壬生町長は、昭和三三年一二月一日原告ら選挙管理委員四人が全員退職したとして、後任委員の選挙を行うため町議会を招集する旨告示した。そして、右町長の招集により同月四日午前一〇時開かれた町議会において、訴外奈良部峯吉、中村勝輝、琴寄理一および大栗丹波の四人が選挙管理委員に選挙(以下「本件選挙」という。)された

(三)  しかしながら、本件選挙には次のような無効原因がある。

(1)  原告、国生重雄、横山玄正および賀長清一が退職した事実はない。するわち、壬生町においては昭和三三年一一月二四日町長選挙が行われたところ、同月二七日その開票に関し意外な紛争を生じたので、原告ら選挙管理委員四人はその責任をとる意味で一応各自辞表を作成し、壬生町総務課長訴外田辺某にこれを預けた。しかしながら、選挙管理委員会の委員長又は委員が退職するには、地方自治法第一八五条に定める手続をとることを要するところ、原告ら四人は、たんに辞表を右田辺課長に預けただけで、原告が委員長として国生ほか二人の委員の退職を承認することもなく、また委員会において原告の退職を承認することもしないうちに、状勢の変化により全員退職の意思をひるがえし辞表を撤回するにいたつた。してみると、原告ら四人は、まだ退職したということができないので、それぞれ依然として選挙管理委員会委員長又は委員の地位にあるわけである。したがつて、本件選挙は、選挙を行うことができない場合であるのにあえてこれをした違法があり、無効であるといわなければならない。

(2)  また、本件選挙が行われた町議会においては、議長斎藤米吉が議長席について開会を宣するや、右(1)に述べたように選挙管理委員四人はまだ退職していないから後任者の選挙を行うことは全く必要がない旨述べてただちに閉会を宣言した。しかるに副議長中川某は、その他の一五人の議員らとはかり、斎藤議長が現に議長席にいるにもかかわらず、議長の職務を代行し、本件選挙を強行したのである。従つて、本件選挙は、議長が適法に閉会を宣言した後に一部議員らによつてほしいままになされたものであり、有効な議会の選挙として存在しないものであるか、少くとも、議長に何ら事故がないのに副議長がその職務を行つた点において地方自治法第一〇六条に違反し無効のものであるといわなければならない。

(四)  しかるに、前記奈良部峯吉外三人は、本件選挙により適法に選挙管理委員になつたとして、選挙の翌日壬生町役場に参集して会議を開き、あるいは、前記町長選挙に関する異議申立を受理する等その職務を執行しつつある。このような事情のもとにおいては、原告は本件選挙の無効であることの確認を求める利益があること明白である。

(五)  よつて、本件選挙の無効確認および原告が現に壬生町選挙管理委員の地位にあることの確認を求める。なお、地方自治法には、選挙管理委員の選挙につきいわゆる選挙訴訟をみとめた規定はないが、本訴はいわゆる選挙訴訟(民衆訴訟)として提起したものではないから、適法として許さるべきである。

第三被告の答弁

(一)  請求棄却の判決を求める。

(二)  原告主張事実はすべて認める。

第四証拠〈省略〉

理由

第一本件選挙の無効なることの確認を求める部分について

(一)  原告の主張を要約すると、「原告は、壬生町選挙管理委員の地位にあるものであるところ、壬生町議会は、原告その他選挙管理委員全員が退職しないにもかかわらず、退職したとして本件選挙を行い後任者を選挙した。よつて、本件選挙の無効なることの確認を求める」というに帰着する。そこで、まず、これが適法であるか否かについて考えてみるに、本訴は地方議会のした選挙の効力を争う訴訟であるところ、地方自治法においては、地方議会のした選挙に関しては第一七六条第七項および第一一八条第五項の各規定による訴訟以外には裁判所に出訴することを認めていないので、本訴は法の認めない不適法なものではないかという疑問を生ずる。しかしながら、いわゆる選挙訴訟が法律の規定をまつてはじめて許されるというのは、この種の訴訟が選挙に関する法の適用の確保ないしは選挙の公正の保障を主眼とし、当事者間における具体的権利義務の確定による紛争の解決を目的としていないからに外ならない。ところが、本訴は原告の主張自体から明らかなようにいわゆる選挙訴訟とは別個のものであり、原告が本件選挙により自己の選挙管理委員たる地位を害されたことを理由とし、自己の権利をまもることを目的として提起しているものであるから、一般原則により出訴を許されるものであるというべく、地方自治法に規定がないとの一事をもつてこれが不適法であると論断することは許されないというべきである。ただ、被告が普通地方公共団体たる壬生町の機関であることは明白で、したがつて法律上の権利義務の主体たる地位(人格)を有しないから、当事者能力の点においても疑問が存するが、本件選挙はその実質において公務員の任命行為と少しも異なるところがないのであるから、本件選挙の無効確認を求める関係においては、本件選挙を行政処分と、被告議会を行政庁と解し、被告議会に対して訴を提起することを認めるのが相当である。そして、かかる訴訟につき第一審の裁判所として当裁判所が管轄権を有することはいうまでもない。

(二)  次に、原告主張の請求原因事実は、当事者間にすべて争がない。そして、右事実によれば、原告、国生重雄、横山玄正および賀長清一は壬生町選挙管理委員を退職した事実なく現にその地位にあり、本件選挙は、したがつて、選挙を行うべき事由がないのにあえてこれをした点において違法であるから無効といわなければならない。

(三)  進んで、原告に確認の利益ありやについて考える。本件選挙の無効であることを主張することは、実質的にはこれによつて選出された訴外奈良部峯吉外三人が選挙管理委員たる地位を有しないことの確定を求めるに帰する。そして、原告としては、かかる他人が地位を有しないことの確定を求めるよりも積極的に自己が選挙管理委員たる地位の確定を求めれば紛争の解決には充分ではないかということも考えられる。しかしながら、被告が、原告らの在任を否定して後任者を選出し、これらが選挙管理委員であるような外観を呈する以上本件選挙によつて原告らの法的地位が不安定になつていることは容易に看取しうるところであり、かつ、本件選挙の無効確認の判決がある限り被告はこれに拘束されて再び本件選挙と同一の理由で選挙を施行することができなくなるのであるから、本件選挙の無効確認を求めることが原告らの法的地位の不安定を除去するにつき有効適切な手段でないということはいえないのである。まして原告の地位確認の請求が、後記のように、被告に対しては当事者能力の関係で許されないということであつてみればなおさらのことである。もつとも、原告が、単独で、本件選挙全部の無効確認を訴求しうるかという疑もあるが、元来本件選挙は一個不可分のものであり、また、訴外奈良部ら四人のうちいずれの一人の選出によつて原告の地位が害されているかということも決定することができないのであるから、この点も積極に解するほかはない。以上のしだいで、原告は、本件につき確認の利益があるというべきである。

(四)  よつて、本件選挙の無効確認を求める部分を理由ありとして認容する。

第二原告が選挙管理委員たる地位を有することの確認を求める部分について

被告議会が壬生町の機関であり、原則としては当事者能力を有せず、法律に特別の規定があるが、前記第一のような特殊の場合でなければ訴訟の当事者となりえないことは、詳言するまでもない。そして、本件はかかる例外の場合に当らないこと明白であるから、本訴はこの部分につき不適法として排斥を免れない。

第三結論

よつて、訴訟費用につき民事訴訟法第九二条但書を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 広瀬賢三 宮本聖司 吉井直昭)

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